ジェンダー平等や性の多様性の尊重を推進し、誰もが自分らしく生きられる地域社会の実現に向けた基本的な考え方および条例に盛り込むべき考え方について(答申) 令和5年12月 品川区ジェンダー平等の推進に関する検討委員会 はじめに 品川区ジェンダー平等の推進に関する検討委員会は、令和5年6月に品川区長から「ジェンダー平等や性の多様性の尊重を推進し、誰もが自分らしく生きられる地域社会の実現に向けた基本的な考え方および条例に盛り込むべき考え方について」の諮問を受けました。 本検討委員会では、ジェンダー平等や性の多様性の尊重を推進し、誰もが自分らしく生きられる地域社会の実現を目指し、新たな条例に盛り込むべき考え方についての議論を5回にわたり重ねてきました。 人は誰もが個人として尊重される権利を持ち、性別等により差別されることのない平等な存在です。 これまでの品川区の取組みにより、男女共同参画は進展してきてはいるものの、今なお性別等による人権侵害や固定的な性別役割分担意識、それに基づく社会的な慣習が存在していることが、「品川区人権に関わる区民意識調査」の結果からも明らかになっています。 性別や性的指向、ジェンダーアイデンティティに関わりなく、すべての人が平等に権利、責任、機会を共有し、個々の個性と能力を十分に発揮し、自らの意思で社会のあらゆる分野に参画できる機会が確保される社会を形成するためには、今こそ「ジェンダー平等と性の多様性を尊重し合い、誰もが公平で平等な社会の実現」が必要です。 以上のことを考慮し、品川区におけるジェンダー平等と性の多様性を尊重し合い、誰もが公平で平等な社会を実現するための指針となる新たな条例に盛り込むべき基本的な理念や推進体制について提言します。 具体的には品川区の判断に委ねることとなりますが、新しい条例の制定にあたり、その名称や内容および今後の施策の実施に際して、本答申の趣旨を十分に活かしていただけることを心からお願い申し上げます。 品川区ジェンダー平等の推進に関する検討委員会 委員長 川眞田 嘉壽子 「基本理念」について条例に盛り込むべき事項 区が目指す「ジェンダー平等と性の多様性を尊重し合い、誰もが公平で平等な社会(以下「ジェンダー平等社会」という。)」が実現された姿は、以下のとおりです。 すべての人が、性別や性的指向、ジェンダーアイデンティティ(以下「性別等」という。)にとらわれることなく、 ◆自らの意思によって、社会のあらゆる分野に平等に参画できる社会 ◆その個性と能力を十分に発揮して、誰もが自分らしく生きられる社会 ◆多様な個人として尊重され、排除されることのない社会 ◆差別や暴力を受けることのない社会 ジェンダー平等社会の実現に向けて、区が区民、教育関係者、事業者と協力 連携して推進すべき基本理念について、下記の考え方を盛り込んでいくことが重要です。 《人権の尊重》 社会には、性別等を理由とした差別やハラスメント、配偶者暴力等が存在しており、これらは明らかな人権侵害です。 性別等にかかわらず、多様な個人として尊重され、排除されることなく、差別や暴力のない社会の形成には、人権侵害の根絶が不可欠であり、そのために、性別等を理由とした差別、配偶者暴力等、ハラスメントなどの人権侵害の禁止を掲げていくことが大切です。 また、総務省の『令和5年度版情報通信白書』によれば、日本におけるソーシャルメディア利用者数の令和5年度予測値は、105百万人とされています。 (※SNSやアプリを月 1 回以上利用する人の数(アカウントの有無は問わない。)) SNSはコミュニケーションを広げる面がある一方、情報発信の容易さ等から、他人への誹謗中傷を書き込んでしまうなど、その利用に際して他人の人権を侵害してしまう恐れがあります。 安易な書き込みでほかの人の人権を傷つけないために、メディア リテラシーの育成に向けた取組みや情報の発信および流通にあたっては、性別等に起因する人権侵害に当たる表現を用いないよう十分に配慮することが必要です。 《ジェンダー平等と多様性》 すべての人が、自らの意志によって、社会のあらゆる分野に平等に参画でき、その個性と能力を十分発揮して、誰もが自分らしく生きられる社会の形成には、以下の4つの視点が必要です。 1.多様な生き方の選択 社会の一部には、固定的な性別役割分担を求める傾向が強く残っており、社会制度や慣行に色濃く反映されています。 社会制度や慣行の影響により、結果として個人としての生き方を狭めることなく、多様な生き方を選択できることが重要です。 2.あらゆる分野への参画機会の確保 すべての人が、社会のあらゆる分野において、その活動方針の立案や決定の過程に参画する機会を確保することが重要です。 3.生活と仕事等の社会活動の調和(ワーク ライフ バランスの実現) 個人がその個性と能力とを発揮し、さまざまな活動に参画していくためには、すべての人が、性別等にかかわりなく、家事、子の養育、家族の介護といった生活における活動と仕事や学び、地域活動等とが調和のとれた暮らしを送れるよう、社会として支援していくことが必要です。 4.リプロダクティブ ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)の尊重 女性は、妊娠 出産などライフサイクルを通じて健康上の問題に直面するため、生涯を通じて女性の健康を支援していく必要があります。 男女ともに、女性の健康に関する知識 情報の取得 理解 活用の向上に努め、男性を含め広く社会全体の認識を高めていくことが重要です。 また、多様な家族のあり方があることから、性別等にかかわらず、豊かな生涯を送るための基本として「心とからだの健康」を支援していくことが重要です。 《ジェンダー平等社会の推進を支える教育》 「知らないこと」は、差別や偏見を生む要因です。学校教育などあらゆる教育の場において、性別等に関係なく、尊重され、差別や暴力を受けることなく、また、自らの意思であらゆる分野に参画し、個性と能力を発揮できる社会を形成していく意識を醸成することが必要です。 《女性のエンパワーメント》 2023年6月に発表された最新のジェンダー ギャップ指数では、日本は146カ国中125位であり、前年116位よりもさらに後退しました。 日本は他の先進国と比較して、女性参画の面で遅れていることがジェンダ ギャップ指数から明らかであり、女性と男性の参画状況の格差が課題となっています。 内閣府の『令和5年度版男女共同参画白書』では、女性の参画促進の阻害要因の一つとして、仕事などの有償労働時間が男性に偏り、家事 育児などの無償労働時間が女性に偏っていることが挙げられています。 『品川区人権に関わる意識調査』(令和元年度実施)においても、家庭内における家事分担は「妻」の割合が高くなっているほか、職場や社会通念 慣習 しきたりについて、「男性のほうが非常に優遇」「どちらかというと男性が優遇」との回答が6割を占めています。 私たちは、性別等にかかわらず、すべての人が多様な生き方を選択でき、平等に参画できる社会を目指しています。現状を踏まえ、女性が尊厳と誇りを持って自らの生活や人生を決める権利を保障し、あらゆる参画の機会において、女性個人が持つ力を最大限に発揮できるよう、女性のエンパワーメントを支援していく必要があります。 《性的指向およびジェンダーアイデンティティの多様性》 「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が令和5年6月に成立しました。 この法律の目的は、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性を受け入れる精神の涵養と、それをもって多様性に寛容な社会の実現に資すること、とされています。 性の多様性についての無知や誤解が差別や偏見につながることのないよう、すべての人に対して意識啓発と理解を促していく必要があります。 また、かつて都内の大学院生がアウティング被害を受けた後に亡くなった痛ましい事件に関して、東京高等裁判所はその控訴審判決において、「アウティング(本人の性のあり方を、本人の同意なく第三者に暴露してしまうこと。)」は「人格権の侵害」であると認定しました。 このことから、個人の性的指向やジェンダーアイデンティティに関して、公表を強制または禁止したり、本人の意に反して公にしたりすることを禁止していくことが大切です。 なお、この法律を巡っては、性自認についての議論が巻き起こりましたが、性自認を詐称しての暴力や犯罪は絶対に許されるべきではありません。 《国際社会 国内での取組みに対する理解 推進》 国際社会または国内での先進的な取組みを研究し、複数の問題が組み合わさることで起こる複合的な差別や偏見について理解するための啓発や研修などの取組みが必要だと考えます。 「区 区民 教育関係者 事業者の役割」について条例に盛り込むべき事項 《区の役割》 区は、条例の基本理念を推進するため、ジェンダー平等社会の推進にかかる施策を総合的かつ計画的に実施することが必要です。 区は、区民、教育関係者、事業者、国、他の地方公共団体その他の関係機関と連携し、協力して、ジェンダー平等社会が実現するようリーダーシップを発揮していくことが必要です。 また、区は、区民、教育関係者および事業者が、ジェンダー平等や性の多様性に関する理解を深められるよう、必要な普及啓発および広報活動に努めることが必要です。 《区民の役割》 性別等に関係なく、尊重され、差別や暴力を受けることなく、また、自らの意思であらゆる分野に参画し、個性と能力を発揮できる社会を形成していくためには、区民一人ひとりがジェンダー平等社会について理解を深め、生活、職場、学校、地域等における活動において、その推進に努めることが必要です。 《教育関係者の役割》 教育関係者がジェンダー平等社会の推進に関する教育の重要性を認識し、教育を行うよう努めることが必要です。 《事業者の役割》 民間企業やその他の団体が、事業活動を行うにあたって、ジェンダー平等社会についての理解を深め、その推進に努めるとともに、すべての人がワーク ライフ バランスを実現できるよう環境の整備に努めることが重要です。 《全体として》 区は、区民、教育関係者、事業者と協力し、それぞれの活動がジェンダー平等 社会の推進につながるよう、連携していくことが重要です。 また、区民、教育関係者、事業者は、区が実施するジェンダー平等社会の推進 に関する施策に協力するよう努めることが大切です。 推進体制について 《推進会議の設置》 条例の基本理念に基づく推進計画の継続的な評価や実態 課題の把握のために、常設の区長の附属機関を置く必要があります。当該機関は条例を総合的に推進するとともに、課題ごとに柔軟かつきめ細やかな検討を行い、新たな施策を提案するなど、実効性を確保することが必要です。 《推進計画の策定》 区は、条例の基本理念のもと、区の関連施策 事業を計画に位置付け、区民、教育関係者、事業者と協力して、区におけるジェンダー平等社会を推進していくことが必要です。 《苦情 相談への対応》 ジェンダー平等社会の推進にあたり、区は、セクシュアル ハラスメントやマタニティハラスメント、アウティングなどの人権侵害に対する解決を図るために、区民からの苦情 相談を受け付ける体制を整える必要があります。 区は、区民からの苦情 相談を「区民が直面している苦しい(辛い)事情」として捉え、区民に寄り添った対応を行うことが重要です。 《変化への対応》 区を取り巻く環境や社会的な状況は絶えず変化し続けております。社会の変化に伴う人権課題や人々の意識の変化を的確に把握し、それに対応するために将来的に条例の内容を見直すことが重要です。 品 総 啓 発 第 1 号 令和5年6月21日 品川区ジェンダー平等の推進に関する検討委員会 委員長 川眞田 嘉壽子 様 品川区長 森 澤 恭 子 諮 問 文 品川区ジェンダー平等の推進に関する検討委員会設置要綱第2条の規定に基づき、次のとおり諮問します。 1.諮問事項 ジェンダー平等や性の多様性の尊重を推進し、誰もが自分らしく生きられる地域社会の実現に向けた基本的な考え方および条例に盛り込むべき考え方について 2.諮問理由 人は誰もが個人として尊重される権利を持ち、性別等により差別されることのない平等な存在です。 区では、男女共同参画社会の実現を図るため、昭和 56 年(1981 年)に「婦人問題解決と婦人の社会的地位向上のための品川区行動計画」を策定して以来、時代に即したさまざまな施策を推進してきました。 これまでの取組みにより、男女共同参画は前進してきているものの、今なお、性別に起因する人権侵害、性別による固定的な役割分担意識やそれに基づく社会的慣行が存在するなど、多くの課題が残されています。 そのような中で、私たちは今、SDGsの目標の一つである「ジェンダー平等の実現」にあたり、すべての人が、社会的 文化的に形成された性別ならびに性自認、性的指向および性表現にかかわりなく、等しく権利、責任、機会を分かち合うとともに、それぞれの個性と能力を十分に発揮して、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保されている社会を形成していくことが求められています。 そのため、区では、「ジェンダー平等」の視点に基づき施策を推進するために、新しい条例を制定して、区としての姿勢や考え方を明確にし、今後の取組みの指針としたいと考えています。 つきましては、以上の趣旨を踏まえ、ジェンダー平等や性の多様性の尊重を推進し、誰もが自分らしく生きられる地域社会の実現に向けた基本的な考え方および条例に盛り込むべき考え方について、貴委員会の意見を求めるものです。 3.答申を希望する時期 令和5年12月 品川区ジェンダー平等の推進に関する検討委員会設置要綱 令和5年5月1日区長決定 要綱第105号 (設置) 第1条 「(仮称)品川区ジェンダー平等の推進に関する条例」の検討に関する事項を審議するため、品川区ジェンダー平等の推進に関する検討委員会(以下「委員会」という。)を設置する。 (職務) 第2条 委員会は、区長の諮問に応じ、「(仮称)品川区ジェンダー平等の推進に関する条例」に関する事項を審議し、その結果を答申する。 (組織) 第3条 委員会は、原則として委員10人以内をもって組織する。 (委員) 第4条 委員は、次の各号に掲げる者のうちから区長が委嘱する。 (1)学識経験者 (2)区内関係団体を代表する者 (3)公募区民 (4)その他区長が認める者 2 委員を選任する場合は、性別等の比率に偏りが生じないよう配慮するなど多様な委員構成となるよう努めるものとする。 3 委員の任期は、区長が委嘱した日から区長の諮問に係る答申の日までとする。 (委員長および副委員長) 第5条 委員会に委員長および副委員長を置く。 2 委員長および副委員長は、委員のうちから区長が指名する。 3 委員長は、会務を総理し、委員会を代表する。 4 副委員長は、委員長を補佐し、委員長に事故があるときは、その職務を代理する。 (会議) 第6条 会議は、委員長が招集する。 2 会議は、委員の過半数が出席しなければ開くことができない。 3 会議の議事は、出席委員の過半数で決し、可否同数のときは委員長の決するところによる。 4 委員長が必要と認めるときは、会議はテレビ電話装置その他の情報通信機器(以下「テレビ電話装置等」という。)を活用して行うことができるものとする。この場合において、テレビ電話装置等を活用して会議に出席した者は、会議に出席したものとみなす。 5 委員がテレビ電話装置等を活用して会議に参加した場合において、当該委員が使用するテレビ電話装置等が、音声の送信または受信ができなくなったときは、当該委員は、音声の送信または受信ができなくなった時刻から退席したものとみなす。 (庶務) 第7条 委員会の庶務は総務部人権啓発課において処理する。 (その他) 第8条 この要綱に定めるもののほか、委員会の運営に関し必要な事項は、委員長が別に定める。 付 則 1 この要綱は、令和5年6月1日から適用する。 2 この要綱は、第2条に基づく区長の諮問事項に係る答申があった日にその効力を失う。 品川区ジェンダー平等の推進に関する検討委員会 委員名簿 公募区民(五十音順) 1前田 実咲 2村田 丈一 関係団体からの推薦による 3松尾 和英 東京人権擁護委員協議会品川区人権擁護委員会委員長 4橋本 久美子 東京商工会議所品川支部副会長 5中嶋 英雄 品川区立学校校長(台場小学校校長 台場幼稚園長) 学識経験者(五十音順) 6大槻 奈巳 聖心女子大学現代教養学部教授 7川眞田 嘉壽子  立正大学法学部教授 委員長 8谷生 俊美 放送局勤務 9寺ア 京 りべる総合法律事務所 弁護士 副委員長 10松中 権 認定NPO法人グッド エイジング エールズ代表 事務局 1 総務部長 堀越 明(事務局長) 2 人権啓発課長 加島 美弥子 3 商業 ものづくり課長 小林  徹 4 教育総合支援センター長 丸谷 大輔 5 人権啓発課男女共同参画担当 (庶務) 開催経緯 第1回 令和5年6月21日 委嘱状伝達 検討事項の諮問 委員紹介 検討委員会の開催予定 区の現状について 「条例に盛り込むべき考え方」について (たたき台) 第2回 令和5年7月26日 ジェンダー平等を推進するための基本的な考え方について(たたき台)〜 基本理念、各主体の役割、取組 推進体制等について 〜 第3回 令和5年8月30日 区民意見公募手続き(パブリックコメント)について 第4回 令和5年12月4日 区民意見公募手続き(パブリックコメント)の結果報告について 答申(案)について 第5回 令和5年12月18日 答申 品川区ジェンダー平等の推進に関する検討委員会の資料、会議録については、品川区ホームページにて公開していますので、ご覧ください。 品川区ホームページ/区政情報/人権 平和 男女共同参画/男女共同参画/品川区ジェンダー平等の推進に関する検討委員会 URL https://www.city.shinagawa.tokyo.jp/PC/kuseizyoho/kuseizyohozinken/kuseizyoho-zinken-kyodosankaku/2023/index.html