2ページ 第1章 計画の策定にあたって 1.計画策定の趣旨 近年、こどもやその親を取り巻く環境は大きく変化しています。核家族化の進展や地域社会のつながりの希薄化により、家族間における子育て基盤の弱体化や地域社会の子育て機能の低下から、子育て家庭の孤立が広がり、育児への負担や不安が増大するなど、子育て家庭を取り巻く環境は厳しいものとなっています。 また、こどもを取り巻く環境は多様化・複雑化し、こどもの貧困や教育・体験格差、不登校や引きこもり、いじめ、虐待、自殺などが深刻な社会現象となっています。 こうした背景のもと、2016年には児童福祉法が改正され、子どもが権利の主体であることが明確化されました。この改正では、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、すべての児童は適切な養育を受け、健やかな成長・発達や自立等を保障される権利を有することが明記されました。また、児童の年齢や発達に応じた意見の尊重と最善の利益の優先的な考慮が定められ、国および地方公共団体は、児童の最善の利益を優先して考慮し、児童の福祉を保障するための万全の措置を講じることとされました。 さらに、2023年4月には子どもに関係する行政の一元化や取り組みの強化を目的とし、「こども家庭庁」が発足され、こども政策を総合的に推進することを目的に「こども基本法」が施行されました。同年12月には、こども基本法に基づき、「こども大綱」が閣議決定されました。この大綱は、従来の「少子化社会対策大綱」、「子供・若者育成支援推進大綱」および「子供の貧困対策に関する大綱」を一つに束ね、さらに必要なこども施策を盛り込み、まとめたものです。 「こども大綱」では、すべてのこども・若者が、生涯にわたる人格形成の基礎を築き、自立した個人としてひとしく健やかに成長することができ、心身の状況、置かれている環境等にかかわらず、ひとしくその権利の擁護が図られ、身体的・精神的・社会的に将来にわたって幸せな状態(ウェルビーイング)で生活を送ることができる「こどもまんなか社会」を目指すとしています。 品川区は、これまで「品川区子ども・子育て支援事業計画」を策定し、さまざまな子育て支援事業や多様な保育事業、特色ある教育など、子育て関連事業の充実に取り組んできました。 また、「品川区子ども・若者計画」では、子ども・若者の健やかな成長と社会生活を円滑に営むことができるよう支援施策の一層の推進に取り組んできました。 本計画では、これら二本の計画を一本化することで、子ども・若者、子育て家庭に関する施策に一元的に取り組み、こどもに関する総合的なビジョンを示します。 このビジョンを通じて、すべてのこどもが健やかに成長でき、子育て家庭が安心して子育てできる社会の実現と、すべての区民が未来に希望を持ち、幸せに暮らすことができるウェルビーイングの実現を目指します。 今回の計画策定にあたり行った「品川区こども計画の策定に向けた区民意識調査(令和6年)」(以下、「アンケート調査」)によると、およそ9割の区民が今の生活に幸せを感じていることが分かりました。 (表) 問.今の生活に幸せを感じていますか。(単一回答) 出典:アンケート調査 就学前児童保護者(n=875)とても幸せ42.2%、幸せ52.1%、あまり幸せでない4.7%、幸せでない1.0% 小学生保護者(n=890)とても幸せ29.2%、幸せ62.8%、あまり幸せでない7.3%、幸せでない0.7%中学生(n=298)とても幸せ44.3%、幸せ49.3%、あまり幸せでない4.4%、幸せでない2.0% 若者(n=482)とても幸せ26.8%、幸せ61.8%、あまり幸せでない8.9%、幸せでない2.5% 区民の幸福度のさらなる向上に向けて、一人ひとりが抱える思いや願いを丁寧に受け止め、具体的な施策として反映させることで、幸せを実感できる暮らしの実現に取り組んでまいります。 4ページ 2.計画策定の背景 1.国の動向 1994年4月 「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」の批准 すべての子どもが持っている権利を保障するために定められた条約です。1989年国連総会第44回会期において全会一致で採択され、日本は1994年に批准しました。 2000年11月 「児童虐待の防止等に関する法律」の施行 児童虐待の禁止、児童虐待の防止に関する国・自治体の責務、虐待を受けた児童の保護に関する措置等が規定されました。 2003年7月 「少子化社会対策基本法」の制定 少子化に対処するための施策の基本理念、国・自治体・事業主・国民の責務、基本的施策、少子化社会対策会議の設置等が規定されました。 2003年7月 「次世代育成支援対策推進法」の制定 次世代育成支援対策の基本理念を定めるとともに、国による行動計画策定指針、自治体および事業主による行動計画策定等の次世代育成支援対策を重点的に推進することが示されました。 ※10年間の時限立法、2014年改正により2025年3月31日まで延長 2009年7月 「子ども・若者育成支援推進法」の制定 子ども・若者育成支援施策の総合的推進のための枠組み、社会生活を円滑に営む上での困難を有する子ども・若者を支援するネットワークの整備が規定されました。 2013年6月 「子どもの貧困対策の推進に関する法律」の制定 子どもの貧困対策に関する基本方針、子どもの貧困に関する指標、指標の改善に向けた重点施策、推進体制等が規定されました。 2015年4月 「子ども・子育て支援新制度」の開始 認定こども園、幼稚園、保育所を通じた共通の給付(「施設型給付」)および小規模保育等への給付(「地域型保育給付」)の創設、認定こども園制度の改善、地域の実情に応じた子ども・子育て支援の充実が示されました。 2016年6月 「児童福祉法」の改正 子どもが権利の主体であることを明確化し、児童の権利条約の精神を明記しました。また、家庭養育優先の原則を規定し、児童虐待防止対策として市町村や児童相談所の体制強化が示されました。 2019年6月 「児童虐待の防止等に関する法律」の改正 児童虐待防止対策の強化を図るため、児童の権利擁護、児童相談所の体制強化および関係機関間の連携強化等の所要の措置を講ずることが示されました。 ? 2019年6月 「子どもの貧困対策の推進に関する法律」の改正 「子どもの現在」の改善を目的に、「児童の権利に関する条約」の精神にのっとり、子どもの意見が尊重されることが明記され、市区町村における子どもの貧困対策計画策定が努力義務化されました。 2019年10月 幼児教育・保育の無償化の開始 子ども・子育て支援法の改正により、認定こども園、幼稚園、保育所等を利用する3歳から5歳児の子ども、住民税非課税世帯の0歳から2歳児の子どもの利用料が無償化されました。 2022年6月 「児童福祉法」の改正 要保護児童等への包括的かつ計画的な支援の実施を行うことや、児童福祉および母子健康に関し包括的な支援を行う「こども家庭センター」設置の努力義務化等が規定されました。 2023年4月 こども家庭庁の発足 「こどもまんなか社会」の実現を目的として、子どもの視点で、子どもを取り巻くあらゆる環境を視野に入れ、子どもの権利を保障し、誰一人取り残さず健やかな成長を社会全体で後押しするために創設されました。 2023年4月 「こども基本法」の施行 日本国憲法および「児童の権利に関する条約」の精神にのっとり、すべてのこどもが、将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指し、こども政策を総合的に推進することを目的として、こども施策の基本理念のほか、こども大綱の策定やこども等の意見の反映などについて定められました。 2023年12月 「こども大綱」の閣議決定 こども基本法に基づき、幅広いこども施策を総合的に推進するため、6つの基本的な方針や施策に関する重要事項が規定されました。 2023年12月 「こども未来戦略」の閣議決定 こども・子育て政策を抜本的に強化し、「次元の異なる」少子化対策を実現するため、将来的なこども・子育て政策の大枠とともに、集中取組期間に実施すべき「加速化プラン」の内容が示されました。 2023年12月 「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」の閣議決定 子どもの「はじめの100か月」から生涯にわたるウェルビーイングの向上を図ることを目的として、「児童の権利に関する条約」の理念や原則を踏まえ、子どもの健やかな育ちを保障する観点から、「全ての人で共有したい理念」と「こどもの育ちの基本的な考え方」が示されました。 2024年6月 「子ども・若者育成支援推進法」の改正 国・地方公共団体等が各種支援に努めるべき対象にヤングケアラーが明記されました。ヤングケアラーとは、「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と定義されています。 2024年6月 「子どもの貧困対策の推進に関する法律」の改正 こども大綱において、「こどもの貧困を解消し、貧困による困難を、こどもたちが強いられることがないような社会をつくる」ことが明記されたことを踏まえ、法律の題名に「貧困の解消」を入れることとし、法律の名称が「こどもの貧困の解消に向けた対策の推進に関する法律」に改称されました。 2024年6月 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の閣議決定 医療・教育・防災・こども等の準公共分野におけるデジタル化について、官民間やサービス主体間での分野を越えたデータの利活用を促進し、安全・安心を確保しつつ、国民一人ひとりに最適なサービスを提供できるようにすると示されています。 2. 東京都の動向 2021年3月 「東京都こども基本条例」の施行 「児童の権利に関する条約」の精神にのっとり、子どもを権利の主体として尊重し、子どもの最善の利益を最優先にするという基本理念のもと、子どもの安全安心、遊び場、居場所、学び、意見表明、参加、権利擁護等多岐にわたる子ども政策の基本的な視点が一元的に規定されました。 2021年12月 「こどもスマイルムーブメント宣言」発表 子どもを大切にする社会の実現に向けて、都と企業・団体が連携し、子どもの笑顔につながるさまざまな取り組みを展開しています。 2023年9月 子供・子育て支援「018サポート」の申請受付開始 0歳から18歳の子どもたちに1人当たり月額5千円を支給し、子どもの育ちを切れ目なく支援しています。 2023年10月 第二子の保育料無償化の開始 収入や第一子の年齢にかかわらず、0歳から2歳児の第二子の保育料が無償化されました。 2025年1月 「こども未来アクション2025」の策定 「チルドレンファースト」の社会の実現を目指し、都政の政策全般を子ども目線で捉え直し、子ども政策を総合的に推進することを目的に策定されました。 多様な手法でさまざまな環境下にある子どもから聴いた生の声を盛り込み、子ども施策に反映するとともに、子どもを取り巻く環境や直面する課題等を踏まえ、スピード感をもって実践する子ども目線の取り組みを体系的にまとめています。 7ページ 3.計画の位置づけ 本計画は、こども基本法に基づくこども計画にあたり、品川区の子ども・若者・子育て施策の総合計画となります。これまで区が進めてきた子ども・子育て支援法に基づく子ども・子育て支援事業計画と子ども・若者育成支援推進法に基づく子ども・若者計画を一本化するものであり、次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画、こどもの貧困の解消に向けた対策の推進に関する法律に基づく計画も含みます。 策定にあたっては、区の上位計画である「品川区基本構想」や「品川区長期基本計画」、その他「品川区教育振興基本計画」や「しながわ健康プラン21」、「品川区地域福祉計画」等関連計画とも整合を図り策定しています。 8ページ 4.計画の対象 本計画は、こどもおよびその保護者を対象とします。 【用語の定義】 本計画でいう「こども」とは、子ども(乳幼児期・学童期・思春期の者)、若者(思春期・青年期・ポスト青年期・ポスト青年期以降の者)、および心身の発達過程にある者を含むものとします。 ただし、子どもや若者を明確に打ち出したい場合は、「子ども」、「若者」の語を用います。 また、法令や固有名詞などについては「子ども」の語を用いる場合があります。 5.計画期間 本計画の期間は、令和7年度から令和11年度までの5か年とします。また、社会情勢の変化および国や東京都の動向などを踏まえたうえで適宜見直しを行います。 計画期間中は、毎年施策の進捗状況(アウトプット)に加え、計画全体の成果(アウトカム)についても、年度ごとに点検・評価をします。 9ページ 6.子ども・子育て、若者を取り巻く状況 1.子ども・若者の現状 (1) 世帯の現状 @ 年齢3区分別人口の推移と年少人口の割合 年少人口は増加傾向にありましたが、令和2年以降、横ばいとなっています。総人口に占める年少人口の割合は、平成27年以降は11%台で推移しています。 A 子どものいる一般世帯数の推移 品川区の子どものいる一般世帯数は、増加傾向が続いています。 B母子世帯・父子世帯数の推移 品川区における母子・父子世帯数は、平成12年以降横ばいで推移しており、令和2年においては、母子世帯は1,470世帯、父子世帯数は157世帯となっています。母子世帯は父子世帯の7〜10倍程度多くなっています。 (2) こどもの人口の状況 @ 就学前人口の年齢別推移 就学前人口は年々増加していましたが、令和2年をピークに減少に転じています。 A 就学前人口の年齢別推計 就学前人口は、令和7年以降の推計値ではゆるやかな増加が続くと予想されています。 B 合計特殊出生率の推移 品川区の令和5年度の合計特殊出生率は1.02であり、低下傾向となっています。東京都と23区平均と比較すると、平成28年以降上回り推移しています。 C 子ども・若者人口の推移 小中学生、若者の人口総数は、ほぼ横ばいとなっています。小学生と中学生においては、令和2年以降、わずかに増加しています。 (3) 子どもの貧困の状況 「貧困率」とは、OECDの作成基準に基づいて算出したものをいいます。 @ 相対的貧困率の推移 全国の子どもの貧困率は平成24年に16.3%となり、過去最高となりましたが、以降は減少し、令和3年には11.5%となっています。 ※子どもの貧困率は、等価可処分所得の中央値の半分に満たない世帯で暮らす子どもの割合です A 子どもがいる現役世帯の貧困率(子どもがいる現役世帯のうち、相対的貧困にある世帯員の割合) 全国における、令和3年のひとり親世帯(大人が一人)の貧困率は44.5%となっており、ひとり親世帯の半数近くが貧困の状態にあります。 ※現役世帯とは世帯主が18歳以上65歳未満の世帯をいう。 14ページ 7.児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)の「4つの原則」 児童の権利に関する条約には4つの基本的な考え方があり、これらは条文に記された権利であるとともに、あらゆる子どもの権利の実現を考える時に合わせて考えることが大切であるとされています。また、これらの原則は、「こども基本法」にも取り入れられています。 ・差別の禁止:すべての子どもは、子ども自身や親の人種や国籍、性、意見、障がい、経済状況などどんな理由でも差別されず、条約の定めるすべての権利が保障されます。 ・子どもの最善の利益:子どもに関することが決められ、行われる時は、「その子どもにとって最もよいことは何か」を第一に考えます。 ・生命、生存及び発達に対する権利:すべての子どもの命が守られ、もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できるよう、医療、教育、生活への支援などを受けることが保障されます。 ・子どもの意見の尊重:子どもは自分に関係のある事柄について自由に意見を表すことができ、おとなはその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮します。 8.SDGsへの取り組みについて 持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは、平成27(2015)年9月の国連サミットにおいて、全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲載された世界共通の目標で、健康や教育、経済成長、気候変動に関するものなど、多岐にわたる17の目標と169のターゲットが設定されており、令和12(2030)年までの達成を目指すものです。 SDGsの「誰一人取り残さない」という理念のもと、持続可能なよりよい未来を築くことを目標としており、SDGsの視点を持って取り組んでいきます。