令和５年度よくわかる品川区財務諸表 Ⅰ　新公会計制度と品川区の財務諸表の概要 ①　新公会計制度について １　新公会計制度とは 従来の官庁会計は、現金の収入・支出の変動を記録し、現金の収支に着目した会計処理である単式簿記・現金主義会計により予算の適正・確実な執行を図る目的で運用されていました。 一方、新公会計制度は、複式簿記・発生主義という企業会計の考え方を取り入れた会計制度です。 単式簿記とは、一つの取引について、現金の収支のみをとらえ、記録をする帳簿記入の方法です。 現金主義とは、現金の収入・支出という事実に基づいて記録する考え方です。 複式簿記とは、一つの取引について、原因と結果の両方からとらえ、記録をする帳簿記入の方法です。 発生主義とは、現金の収入・支出に関わらず、取引が発生した時点で収益・費用を記録する考え方です。 ２　 新公会計導入のメリット 複式簿記を導入することにより、資産や負債の動きがわかり、ストック情報を把握することができます。 また、発生主義を導入することにより、減価償却や各種引当金繰入額など、現金支出を伴わない費用を把握することができます。決算までに未確定な費用であっても、発生していると認められる場合には、見積計算を行うこともあります。 これらのストック情報や現金支出を伴わない費用を把握することで、品川区の財政状態や運営状況の見える化を図ることができます。 新公会計制度導入により、品川区の財政状態や運営状況の「見える化」をすることで、行政経営マネジメント力の向上や区民の皆様への説明責任の向上を図ることができます。 ３　財務諸表からわかること 財務諸表を作成することにより、地方自治体の財政状態、運営状況、資金繰りに関する情報を得ることができます。 自治体の財政状況を見るには貸借対照表を、事業運営に関することは行政コスト計算書や正味財産変動計算書、資金の動きを知るにはキャッシュフロー計算書になります。 ②　財務諸表の基礎知識 財務４表のうち、貸借対照表とは、会計年度末時点で、区がどのような資産を保有しているのか、その資産がどのような財源でまかなわれているのかを対照表で示します。 行政コスト計算書は、一会計期間において、資産形成に結びつかない行政活動に伴う費用と、その財源としての収入及び収支差額を表し、区民の負担と受益の関係を明らかにします。 キャッシュ・フロー計算書は、一会計期間における、区の行政活動に伴う現金等の資金の流れを性質の異なる三つの活動に分けて示します。 正味財産変動計算書は、貸借対照表の正味財産の部に計上されている各項目が、1年間でどのように変動したかを示します。 附属明細書として、有形固定資産及び無形固定資産附属明細書は、固定資産の増減を変動事由ごとに示します。 Ⅱ　令和５年度品川区財務諸表の説明 品川区の財務諸表には、一般会計の他に、介護保険や災害復旧等の特別会計が４つあります。 ここでは一般会計について説明します。 ①　貸借対照表 資産の部 流動資産　２８５億８２００万円 流動資産のうち　現金預金　６３億７４００万円 流動資産のうち　収入未済　１４億７２００万円 流動資産のうち　不納欠損引当金　マイナス９６００万円 流動資産のうち　基金積立金　２０６億円 流動資産のうち　短期貸付金　２億３３００万円 流動資産のうち　貸倒引当金　マイナス１００万円 固定資産　２兆３２１３億６２００万円 固定資産のうち　行政財産、有形固定資産　７８９１億８３００万円 固定資産のうち　行政財産、無形固定資産　１３億円 固定資産のうち　普通財産　２４１億４５００万円 固定資産のうち　重要物品　１２億８７００万円 固定資産のうち　インフラ資産　１兆４０６１億１１００万円 固定資産のうち　ソフトウェア　６億７４００万円 固定資産のうち　建設仮勘定　２０１億２８００万円 固定資産のうち　ソフトウェア仮勘定　１億５７００万円 固定資産のうち　投資その他の資産　７８３億７７００万円の内訳は 　有価証券　２８億５２００万円 　出資金及び出捐金　１３億８８００万円 　長期貸付金　１４億４０００万円 　貸倒引当金　マイナス１９００万円 　基金積立金　７２７億１７００万円 資産の部合計　２兆３４９９億４５００万円 負債の部 流動負債　３０億８８００万円 流動負債のうち　還付未済金　１７００万円 流動負債のうち　特別区債　１０億２３００万円 流動負債のうち　賞与引当金　２０億４８００万円 固定負債　２５７億１７００万円 固定負債のうち　特別区債　１３２億３６００万円 固定負債のうち　退職給与引当金　１２４億８０００万円 負債の部合計　２８８億４００万円 正味財産の部　 正味財産　２兆３２１１億４０００万円 うち当期正味財産増減額　７４億４８００万円 貸借対照表上の負債と正味財産の割合により、過去世代と現世代が将来世代にどの程度財産を残したか、あるいは将来世代に負担を先送りしたかといった、世代間負担の公平性を把握することができます。 令和５年度のポイント 減債基金の減少等により流動資産の基金積立金が減少しています。 また、固定資産の行政財産が増加しています。これは品川区立総合区民会館大規模改修工事完了に伴う増加等によるものです。 特別区債の発行により、固定負債が22億3,800万円増加しました。 また、地方公務員の定年引上げ（60歳から65歳に引き上げ）に伴う年度末退職者の減少等により退職給与引当金が11億8,500万円増加しました。 ②　行政コスト計算書 行政コスト計算書は、一会計期間における品川区の行政活動の実施に伴い発生した費用を発生主義により認識し、その費用と財源としての収入との対応関係、及びその両者の差額を明らかにすることを目的として作成します。 通常収支の部 行政収支の部 行政収入　１８１３億円８００万円　 行政収入のうち　地方税、地方譲与税、地方特例交付金等　７３５億４００万円 行政収入のうち　特別区財政調整交付金　４４１億７０００万円 行政収入のうち　国庫支出金、都支出金　５１０億６６００万円 行政収入のうち　分担金及び負担金　１８億３０００万円 行政収入のうち　使用料及び手数料　４４億９８００万円 行政収入のうち　寄付金　２億７５００万円 行政収入のうち　財産収入、諸収入　５９億６５００万円 行政費用　１７６３億６３００万円 行政費用のうち　給与関係費　２３６億７５００万円 行政費用のうち　物件費、維持補修費　４３８億２９００万円 行政費用のうち　扶助費、補助費等　６８０億５０００万円 行政費用のうち　投資的経費　１６７億９６００万円 行政費用のうち　繰出金　１４０億９４００万円 行政費用のうち　減価償却費、引当金繰入額　９９億２０００万円 金融収支の部 金融収入　１億３９００万円 金融費用　１億３０００万円 金融費用のうち　公債費利子　１億３０００万円 通常収支差額　４９億５３００万円 特区別収支の部 特別収支の部 特別収入　固定資産売却代益等　２億３７００万円 特別費用　固定資産除却損等　１億２００万円 特別収支差額　１億３５００万円 当期収支差額　５０億８８００万円 ５年度のポイント 特別区税の増加、株式等譲渡所得割交付金等の増加等等により地方税が9億円増加しました。 防災・安全交付金（国庫補助金）、物価高騰対策重点支援地方創生臨時交付金（都補助金）の増加等により国庫支出金・都支出金が37億円増加しました。 区内私立保育園経費の増加等により扶助費が13億円増加しました。 住民税非課税世帯等物価高騰対策支援給付金、給食運営費の増加等により補助費等が23億円増加しました。 学校改築推進経費、戸越公園駅周辺地区再開発事業の増加等により投資的経費が39億円増加しました。 国民健康保険事業会計、後期高齢者医療特別会計への繰出金の増加等により繰出金が19億円増加しました。 賞与引当金繰入額、退職給与引当金繰入額の増加等により減価償却費・引当金繰入額が16億円増加しました。 過年度損益修正損益の増減等によりその他特別収入が1億円増加し、その他特別費用が2億円減少しました。 ③　キャッシュ・フロー計算書 キャッシュ・フロー計算書は、資金の流れを行政サービス活動、社会資本整備等投資活動及び財務活動に区分し、各作成単位における区分別の収支の状況を報告することを目的として作成します。 行政サービス活動 行政サービス活動収入　１８１４億４３００万円　 行政サービス活動収入のうち　税収等　１１７５億９９００万円 行政サービス活動収入のうち　国庫支出金、都支出金　５１１億８５００万円 行政サービス活動収入のうち　業務収入その他　１２５億２０００万円 行政サービス活動収入のうち　金融収入　１億３９００万円 行政サービス活動支出　１６８９億７９００万円 行政サービス活動支出のうち　行政支出　１６８８億４９００万円 行政サービス活動支出のうち　金融支出　１億３０００万円 行政サービス活動収支差額　１２４億６３００万円 社会資本整備等投資活動 社会資本整備等投資活動収入　９２億４６００万円 社会資本整備等投資活動収入のうち　国庫支出金等　１２億４１００万円 社会資本整備等投資活動収入のうち　財産収入　５３００万円 社会資本整備等投資活動収入のうち　基金繰入金　７３億７３００万円 社会資本整備等投資活動収入のうち　貸付金元金回収収入　５億７９００万円 社会資本整備等投資活動支出　２４２億１６００万円 社会資本整備等投資活動支出のうち　社会資本整備支出　１７８億８０００万円 社会資本整備等投資活動支出のうち　基金積立金　５９億９８００万円 社会資本整備等投資活動支出のうち　貸付金、出資金等　３億３８００万円 社会資本整備等投資活動収支差額　マイナス１４９億７０００万円 財務活動 財務活動収入　３２億６２００万円 財務活動支出　９億６０００万円 財務活動収支差額　２３億２００万円 前年度からの繰越金　６５億７８００万円 形式収支＝期末時点での現金残余　６３億７４００万円 ５年度のポイント 特別区税の増加、株式等譲渡所得割交付金等の増加等により税収等が6億円増加しました。 防災・安全交付金（国庫補助金）、物価高騰対策重点支援地方創生臨時交付金（都補助金）の増加等により、国庫支出金・都支出金による収入が31億円増加しました。 扶助費、補助費等、投資的経費、繰出金等の増加等により行政支出は96 億円増加しました。 公共施設整備指定寄附金の減少等により業務収入は12億円減少しました。 義務教育施設整備基金繰入金の増加等により、基金繰入金による収入が11億円増加しました。 公共施設整備基金積立金、財政調整基金積立金の減少等により、基金への積立が47億円減少しました。 新たな特別区債の発行により、財務活動による収入が14億円増加しました。 ５年度の収支差額はマイナス2億400万円であり、前年度からの繰越金を合わせると63億7,400万円の現金残高となっています。 ④　正味財産変動計算書 正味財産変動計算書は、一会計期間における貸借対照表の正味財産の部の項目の変動状況を明らかにすることを目的として作成します。 令和５年度の当期末残高は、２兆３２１１億４０００万円です。 Ⅲ　指標による財務分析 財務諸表を作成することで、各種指標を用いた財務分析を行うことが可能となります。指標には、財務諸表利用者である住民等のニーズに応じていくつかの分析の視点があり、それぞれ単独または組み合わせて分析することが可能です。 ①分析の視点及び指標 １　資産形成度　指標　有形固定資産減価償却率　 令和５年度末の 有形固定資産減価償却率は43.5%となっており、令和４年度末の43.8%から大きな変動はありませんでした。 引き続き品川区全体として老朽化の度合いが低い状態が続いていることが読み取れます。 ２　資産形成度　指標　住民一人当たり資産額 令和５年度末の 住民一人当たり資産額は573万円となっており、令和４年度末の575万円より2万円減少しています。これは、行政財産の増加等により資産は増加したものの人口の増加に伴い一人当たりが減少したものです。 ３　世代間公平性　指標　正味財産比率 令和５年度末の 正味財産比率は98.8%となっており令和４年度末の99.0%から大きな変動はありませんでした。 品川区は、過去世代及び現世代の負担によって将来も利用可能な資源が蓄積されており、将来世代の負担がとても少ないことが読み取れます。 ４　世代間公平性　指標　将来世代負担比率 令和５年度末の 将来世代負担比率は0.64%となっており、令和４年度末の0.54%から微増しているものの大きな変動はありませんでした。 品川区は、有形固定資産等の社会資本等に対する特別区債の残高が少なく、将来世代の負担がとても少ないことが読み取れます。 ５　持続可能性　指標　基礎的財政収支 令和５年度末の 基礎的財政収支は37億5,100万円のマイナスとなっており、令和４年度末の33億8,300万円から大きく減少しています。これは、行政サービス活動収支が減少する一方で、社会資本整備等投資活動収支に大きな変動がなかったことによるものです。 ６　持続可能性　指標　住民一人当たりの負債額 令和５年度末の住民一人当たり負債は7.0万円となっており、令和４年度末の6.0万円から増加しました。 品川区は、住民一人当たり資産額が573万円(資産形成度②参照)対し、住民一人当たり負債額は7万円となっており、資産と負債を比較すると、資産の方が大幅に上回っていることが読み取れます。 ７　効率性　指標　住民一人当たり行政コスト 令和５年度末の住民一人当たり行政コストは43万円となっており、令和４年度末の41万円から2万円増加しています。これは、人口の増加以上に、投資的経費等の行政費用が増加したことによるものです。 ８　自立性　指標　受益者負担比率 令和５年度末の受益者負担比率は6.0%となっており、令和４年度末の6.0%から変動はありませんでした。これは、行政費用が増加したことに加えて、経常収益も増加したことによるものです。