令和8年度予算編成に関する基本方針について(依命通達) 我が国の経済は、令和6年度平均の名目賃金が 3.0%増となるなど、雇用・所得環境の改善により緩やかな回復基調にあるものの、 令和6年度実質賃金は 0.5%減で3年連続のマイナスとなり、物価の上昇が賃金の伸びを上回っている状況が続いている。 さらには、米国の通商政策や、国際情勢の緊迫化によるエネルギー安全保障への影響、物価高騰の長期化による消費者マインドの 下振れなどが景気を下押しするリスクとなっている。 このような情勢において、区財政を見れば、令和6年度一般会計決算は歳入・歳出ともに総額が 2,000 億円を超え、 特に歳入総額は、特別区民税および特別区交付金の伸び等により対前年 7.9%の増となり、使途の制限されない一般財源は対前年 9.3%の増と なった。その一方で、ふるさと納税による特別区民税の流出額は令和7年度約 60 億円に上るとされ、また、国が個人住民税利子割の税収帰属を適正化する考えを示しているこ となどから、直近の決算状況をもって今後の歳入動向を楽観視することはできない。 限られた財源を効果的・効率的に活用し、区民のウェルビーイング向上と持続可能な行政運営の堅持・発展を両立していくにあたって、区は「少子高齢化と人口減少」とい う構造的課題に直面していかなければならない。「品川区総合実施計画」における人口推計によれば、区の人口は 2051 年まで増加を続け、そののち減少傾向に転じる見込みであ る。年少人口(0〜14 歳)は 2046 年に、生産年齢人口(15〜64 歳)は 2035 年に、それぞれピークを迎えた後に減少に転じる一方、老年人口(65 歳以上)は一貫して増加し、 推計の最終年である 2060 年には老齢人口の比率が 28.7%となり、区民の4人に1人が高齢者となると見込まれる。つまり、区は、目下の物価高騰や社会経済情勢に対応する のみならず、少子高齢化・人口減少という将来を正面から受け止めたうえで、人口動態の変化に伴う労働力の不足や社会保障関係経費の増大といった課題に適切に対応してい かなければならない。また、首都直下地震等の災害に備えうる財政力を維持する観点も踏まえ、中長期の行財政の姿を展望しつつ、区民生活・区内経済・財政・社会保障の持 続可能性を確保していく必要がある。 よって、先行き不透明な社会経済情勢において、区が今なすべきこと・将来に備えるべきことを念頭に置き、各部局においては、 第一に、ウェルビーイングの深化として、4つの政策領域(「安全安心を守る」「社会全体で子どもと子育てを支える」「生きづらさをなくし住み続けられるやさしい社会をつくる」「未来に希望の持 てるサステナブルな社会をつくる」)に関わる事業を通じて、誰もが共通に使う日常生活を支える基礎的な行政サービスを等しく提供すること、および災害や疾病など誰もが抱えう る共通のリスクに対する共通の備えを提供することにより、区民のウェルビーイング向上に取り組むこと。 そのために、事務事業評価による事業のスクラップを積極的に推進し、20 億円を目標に財源を捻出するとともに、効果的・効率的な財政支出(ワイズ・スペンディング)を 徹底して意識すること。 第二に、未来志向の戦略的な投資として、持続可能な経済・環境・社会の形成を推進すること。 そのために、SDGs未来都市として、誰一人取り残さない地域社会の実現を目指し、17のゴール達成に資する事業に着実に取り組むこと。 また、「品川区DX推進基本方針」に掲げる「徹底した業務改革による創造・行動中心の行政」を意識し、AIやデジタルツールの活用による内部事務の効率化・高度化や、 デジタルを有効活用できる人材の育成を推進すること。 第三に、持続可能な自治体経営を実現するため、区の歳出構造が「抑制と拡大」(人件費・公債費の減および扶助費・物件費の増)から「構造的な予算の増加」(投資的経費・公債費・社 会保障関係経費の増)へと変化している今、事業実施の優先順位付けによる施策の新陳代謝がこれまで以上に求められている。それゆえ、予算の要求にあたっては、EBPMや事 業検証による振返りに基づき、背景、課題、必要性、費用対効果等を明確にし、スクラップアンドビルドを推進することにより、コスト精査を徹底すること。 以上の基本方針を踏まえ、下記事項に留意して令和8年度の予算の編成にあたられたい。 この旨、命により通達する。 1 全般的事項 予算編成にあたっては、各部局において、年間予算を的確に見積もり、限られた財源の中で区民のウェルビーイング向上を意識し、かつ区長の指示事項を踏まえ、既存 事業の内容・実施方法などの見直しの徹底を図る等、主体性を発揮し取り組むこと。 (1) 基本方針について 前文に掲げる3つの基本方針に基づいた、包括的かつ先見的な取り組みについて積極的に予算要求を行うこと。 (2) 指摘・要望事項について これまでの議会審議における意見、監査の指摘事項および区民要望に十分留意すること。特に、子ども・若者、高齢者・障害者施策については、広く当事者の意見 を聞き、これらを踏まえた予算要求を行うこと。 (3) 新庁舎移転に向けた業務改善と意識改革について 新庁舎移転を契機に、従来の働き方を変革する意識を持ち、「品川区DX推進基本方針」に基づくDXの推進、行政サービスの質と効率性の向上、および業務プロセ スの最適化による生産性の向上を図ること。また、これらの取り組みを推進できるDX人材の育成を図ること。 具体的には、「来庁しなくても手続きできる区役所」を目指し、窓口DXの推進を筆頭に区民の利便性向上と業務改善を図ること。 また、文書削減や電子化等によるペーパーレス化のさらなる推進、不要物品の整理・削減を進め、新庁舎への円滑な業務移行および職員が働きやすい執務環境の整 備を進めること。 (4) 職員定数の適正化および長時間労働の抑制について @ 事業のスクラップアンドビルド、業務の効率化等に努め、真に職員が行うべき業務を明確にし、職員定数の適正化を図ること。 A 公務能率を高め、短時間で成果を上げるよう、勤務時間に対する意識を改革し、長時間労働の抑制に取り組むこと。 (5) 障害者活躍の推進について @ 「品川区における障害者就労施設等からの物品等の調達方針」に基づき、障害者が就労する施設等が供給する物品や役務の活用を検討すること。 A 「品川区職員障害者活躍推進計画」に基づき障害者活躍の推進を図るため、各課等で行っている印刷・封入等の軽作業について、積極的に「業務支援室」を活用すること。 (6) ジェンダー平等の視点に基づいた施策推進について @ 「品川区ジェンダー平等と性の多様性を尊重し合う社会を実現するための条例」に掲げる基本理念を踏まえ、ジェンダー平等と性の多様性を尊重し合う社会の実現を目指すための施策を展開すること。 A 性別等にかかわりなく、区民一人ひとりがそれぞれの個性・能力を発揮して、あらゆる分野での参画・活躍を一層推進していくための施策を展開すること。 B 会議・審議会等における女性委員の登用を推進(委員構成を男女いずれの性も40%以上を目標)し、立案・決定過程への多様な参画の促進を図っていくこと。 (7) 包括的連携協定等を活かした官民共創の推進について 行政課題や地域課題が複雑化・多様化している一方、区の財源や人的リソースには限りがあるため、企業等の持つ技術やノウハウの活用により、当該課題の解決に 取り組んでいく必要がある。区と企業等が多様な分野での相互連携および協働により、様々な課題に対して積極果敢にチャレンジし、区民サービスの向上と地域の活 性化を推進すること。また、多岐にわたる分野への取り組みにあたっては、部局を超えた密な連携を図ること。 (8) ファシリティ・マネジメントの強化について @ 庁舎や区有施設の効率的な管理運営を行うため、施設ごとに利用状況やエネルギー使用量の実態、運用コストの全体像の把握と最適化に努めること。また、委 託内容の定期的な見直し等による業務の効率化、利用者満足度の向上、さらには不要な資産の処分や用途変更の検討を行い、資産活用の最適化に取り組むこと。 A 施設整備や施設運営については、コストの最小化に努めるとともに、節電をはじめとする省エネに配慮した工夫を心がけること。 (9) 議会の議決が必要となる契約について 予算要求にあたっては、議決対象となる契約かを必ず確認し、議決対象となるものは、提案時期および執行時期を十分に検討のうえ、関係各課と調整を行うこと。 また、工事案件等については、出来高見込額を算出すること。 (10) 品川区公契約条例の制定に伴う対応について 品川区公契約条例の制定に伴い、令和8年度以降に対象となる公契約(指定管理協定を含む。)の受注者には、公契約に従事する労働者に対し、「労働報酬下限額」 以上の報酬を支払う契約上の義務が生じることとなるため、対象となる契約案件については、適正な予算額を見込むこと。 (11) 経常的事務事業について 経常的経費については、引き続き部局編成枠方式による編成とし、各部局長は、事業執行の効率化の観点から、自主的な工夫を反映させること。また、既存事務事 業の見直しを徹底するとともに、これまで以上に部内の調整を図ること。 2 歳入に関する事項 (1) 区税収入について 一般財源に占める重要性を認識のうえ、社会経済情勢や税制改正等を十分に見極め、的確な年間収入額を見込むこと。 (2) 国・都支出金について @ 補助制度を最大限に活用することはもとより、補助制度の創設や組替えなど、国・都の動向に十分留意すること。 A 超過負担の原因となっている補助基準(単価・規模等)の改善を要望するなど、積極的な財源確保に努めること。 (3) 基金について 積極的な施策展開を行う事業については、充当可能な基金の活用を図ること。 (4) 起債について 区債発行については、将来負担等を勘案し、慎重に行うこと。 (5) 使用料および手数料について 各施設使用料等については、施設使用に係る受益と負担のバランスも検証しつつ、現下の社会経済情勢を踏まえ適正化について検討すること。 (6) 税外収入について 各種団体が行っている助成制度の情報収集に努め、積極的に活用するとともに、クラウドファンディングを含めたふるさと納税等を検討し、より一層の税外収入の 確保に努めること。 3 歳出に関する事項 (1) 既存の事務事業について 事務事業評価による見直しを徹底し、ゼロベースの視点から縮減・廃止を検討すること。その際は、費用対効果に見合わない事業や社会経済情勢の変化に適合しな い事業についてスクラップを進めること。また、新規事業を実施する際は、必ず成果指標を設定したうえで数値実績に基づいた客観的な評価を行えるように立案し、終期(見直しの時期)についても検討すること。 (2) 各種委託経費の適正化について 委託業務については、仕様内容が適正なものであるかを再度確認し、改めて、真に職員が実施すべき企画立案などのコア業務を委託することのないよう精査のうえ、 生成AIやデジタルツール等の積極的な活用により、委託の範囲を必要最小限とすること。 (3) 啓発物品・印刷経費の適正化について 啓発物品・印刷物の作製・購入にあたっては、費用対効果など必要性を精査し、最小限のものとすること。印刷物については、SDGsの観点から紙媒体を縮減し、 目的に応じてWEBサイトやSNSなどのデジタル媒体を活用すること。また、「誰に何の情報を届けるか」等ターゲットを意識した効果的な情報発信を行うこと。 加えて、都市ブランディングの観点から、「しあわせ多彩区」をメッセージとする品川区都市ブランドデザインを積極的に活用すること。 (4) 合理的配慮(障害者差別解消法)について 障害のある人への合理的配慮の提供にあたり、現状の運用や実施手法等を再検討し、サービスの見直し・向上を図ること。 (5) ゼロカーボンシティしながわ宣言の実現に向けて 2030 年度のカーボンハーフ、2050 年度のゼロカーボン達成に向けて、「品川区環境基本計画」および「品川区職員環境行動計画」に基づき、低炭素電力会社への切 り替えや施設・設備の省エネルギー化、会議・イベント等における環境配慮製品の積極的な活用による使い捨てプラスチック製品の使用削減等を図り、二酸化炭素排 出量の削減に取り組むこと。 また、「品川区公共建築物等における木材利用推進方針」に基づき、多摩産材および協定締結自治体の産材を積極的に利用し、木材利用の推進に努めること。 (6) 施設・設備の大規模改修について 「品川区公共施設等総合計画」、個別施設計画および定期点検の結果を踏まえ、老朽度や耐震性、安全性等の状況を的確に把握するとともに、区民・利用者への影響や利便性の向上を考慮し、時機を逸することなく必要な経費を要求すること。その 際、二重投資とならないよう注意するとともに、建物で消費するエネルギーを大幅に削減したネット・ゼロ・エネルギー・ビル(以下、ZEBという。)化を推進する こと。 (7) 施設の新築、改築について 「品川区公共施設等総合計画」および個別施設計画を踏まえ、機能・維持管理の効率性および省エネに留意し、コストの低減を図るため標準的な仕様として過大な 投資を避けるとともに、民間の資金・ノウハウを活用し、整備後の運営経費についても十分に検討すること。なお、その際は、ZEB化を推進すること。 また、施設の廃止に伴う跡地の利用計画は、早期に検討を進めること。 (8) 公共工事設計労務単価について 設計・工事費の積算にあたっては、適切な工期を設定し、労務単価の改定を適切に反映すること。 (9) 用地取得について @ 公示価格、基準地標準価格、売買実例等を参考に、土地利用計画、取得時期、借上げ等を含め十分に検討して要求すること。 A 事業に必要な用地においては、適地が出るのを待つのではなく、民有地も含めて積極的に情報収集を行うこと。 (10) 各種団体等に対する補助金について 補助基準の明確化を図るとともに、補助の必要性および効果を十分に検証し、効果が薄れたものは、積極的に整理縮小に努めること。 (11) 熱中症対策について 熱中症予防の普及啓発・注意喚起に努めるとともに、事業実施にあたっては、実施時期について十分検討を行うこと。また、国・都における暑さ指数の発表状況を 注視し、事業や施設管理等における熱中症対策に取り組むこと。