2024年1月1日号 広報しながわ
 新春対談 2024

あけましておめでとうございます

北澤 豪(つよし)さん
サッカー元日本代表
森澤 恭子
品川区長

あけましておめでとうございます写真

新年おめでとうございます。

2024年が皆さんにとって、平和で健やかで、笑顔あふれる一年であることを心からお祈り申し上げます。

今年の新春対談、ゲストにお迎えするのはサッカー元日本代表の北澤豪さんです。

北澤さんは現役を引退された今も日本サッカー協会参与、日本障がい者サッカー連盟会長を務めるほか、子ども向けのサッカースクールを主宰するなど、サッカーを通した活動を続けておられます。

そんな北澤さんにスポーツの力、スポーツを通じた共生社会についてお話を伺いました。


スポーツを通じて、あらゆる垣根を超えていく。つながっていく力を実感します。/森澤恭子
スポーツは人と人が混ざり合う、一つのきっかけを作ってくれると思っているんです。/北澤豪

新春対談写真

障がい者サッカーを応援する品川区

区長 あけましておめでとうございます。

北澤 おめでとうございます。

区長 2024年の新春対談はサッカー元日本代表であり、現在は日本障がい者サッカー連盟の会長を務めておられる北澤豪さんをお迎えしました。北澤さん、よろしくお願いいたします。

北澤 よろしくお願いいたします。

区長 品川区は2016年から、日本ブラインドサッカー協会とパートナーシップ協定を結ぶなど、身近なスポーツとしてブラインドサッカーを応援してきました。そして今年はパリ2024オリンピック・パラリンピック競技大会が開催され、ブラインドサッカー男子日本代表が出場します。楽しみですね。

北澤 はい。パリ2024大会のブラインドサッカーのグラウンドは、エッフェル塔の下に用意されるそうです。2025年に東京で開催されるデフリンピック*1 に向けて、どのような大会になるのか参考にしたいと注目しています。

区長 実は数年前のことになりますが、天王洲公園で行われていた「ブラインドサッカーワールドグランプリ」*2 を観戦に行った際、北澤さんをお見かけし、品川区との縁を感じました。品川区にはどんな印象を持たれていますか?

北澤 まずはブラインドサッカーのことから離れて品川区の印象を申し上げると、広いなと(笑)。土地としての広さということではなく、さまざまな表情がある地域だなと感じました。天王洲公園周辺のように水辺を感じさせる空間もあれば、企業が集まるビジネス街や住宅街もあって、商店街もにぎわっている。そして、やはりブラインドサッカーをはじめ、スポーツ、障がい者スポーツに理解が深い区だと実感しています。

観戦する人たちがいてこそ、選手は育つ

区長 ブラインドサッカーワールドグランプリ、東京2020大会を経て、この数年でブラインドサッカーの盛り上がりは大きく変わってきたと思います。そしてパリ2024大会への出場権も手に入れました。昨年7月に区内の総合体育館で「LIGA.i(リーガアイ)ブラインドサッカートップリーグ2023」*3 を観戦しましたが、激しくせり合うなど見応え十分で、楽しめました。

北澤 そのようなパフォーマンスは、競技のレベルが上がったからできるんです。選手たちも当初は、自分の行き先がわからないから、ただぶつかるというものだったと思うのですが、今は自分の動きを把握してプレーしているので観客の皆さんが喜んでくれる試合ができています。それは競技者の努力もありますが、まずは試合ができる場、そして試合を見てくれる観客の皆さんがいないと大きな成長はできません。品川区が応援してくださっていることは、本当にありがたいことですね。

区長 試合ができる場や機会があることはもちろんですが、それを観戦する人たちがいてこそ、選手が育っていくということですね。

北澤 我々の時代のJリーグがまさにそうで、お客さんがたくさん入るようになってから選手たちのパフォーマンスが変わりました。無観客の試合よりは、やはり観客がいる方がテンションも上がりますし、スタンドのお客さんの盛り上がり方やプレーに対する反応がよくなると、選手たちはそれに応えようとするものです。ブラインドサッカーの選手たちも今、それを感じながらボールを追っているのではないでしょうか。

スポーツができる環境があることの大切さ

区長 北澤さんはいくつからサッカーを始められたのですか?

北澤 小学校1年生です。最初は野球をやっていたのですが、落ち着きのない子どもだったので、父が動きの多いサッカーの方がよいだろうと(笑)。

区長 始めてすぐに将来はサッカーの選手になろうと思われたのですか?

北澤 僕が育った町田市はサッカーが盛んで、成長できる環境に恵まれていたんですね。小学校の先生にはサッカーの指導者も多く、そのつながりで大会を開いてくれたり、地元の農家の方が農地をグラウンドとして貸してくれたり。このような環境でサッカーをしていなかったら、たぶんサッカー選手にはなっていないですね。

区長 そうだったんですね。都内ですとグラウンドを確保することがなかなか難しいです。品川区では昨年8月にしながわ区民公園に「こどもサッカー場」を整備し開設しましたが、大変な人気です。ところで、北澤さんは子ども向けのサッカースクールを主宰されているそうですが、やはり次世代へつなげていこうという気持ちが大きいのですか?

北澤 そうですね。それと自分が住んでいる地域に何ができるか、ということでしょうか。

子ども時代のスポーツ体験が心身を鍛える

区長 プロの方に教えてもらえるというのは、子どもたちにとっては“本物”に接することができる貴重な体験だと思います。子どもたちを指導する上で心がけていることなどはありますか?

北澤 子どもですから、まだ本人も気づいていない隠れた才能がいっぱいあるわけじゃないですか。それを見つけるのは楽しいですね。いつもリーダー的な役割をしている子ではなくても、素質があるなと思ったらその子に任せてみたり、本人がやりたいと言えばいつもとは違うポジションをやってもらったり。普段、学校では自分の立ち位置みたいなものが決まってしまうことが多いと思いますが、スクールに来て、学校とは違うコミュニティで違う世界に出会えることは、とてもよいことだなと感じています。

区長 技術以外にも、スポーツを通して身に付くことはありますね。

北澤 フィールドでは、泣いても笑っても、もめ事が起きて喧嘩(けんか)しても、許される環境にしたいと思っているんです。とにかく心豊かに感情を出すということが大切で、それらを出し切って最終的にどう解決するか、乗り越えていくのか。その積み重ねが心の強さみたいなものにつながっていくと思っています。

新春対談写真

区長 東京2020大会が記憶に新しいですが、スポーツを通じた共生社会の実現も重要だと考えています。北澤さんは日本障がい者サッカー連盟の会長としての一面もお持ちですが、そもそも障がい者サッカーに携わるきっかけはどのようなことだったのですか?

北澤 読売サッカークラブ(現・東京ヴェルディ)時代、先輩だったラモス瑠偉さんが障がいのある方をグラウンドに連れて来て一緒にサッカーをやっていたんですよね。

区長 ブラジル出身で日本代表としても活躍されたラモス選手ですね。

北澤 はい。ブラジルでは障がいのある人もない人も一緒にやるのが当たり前、それがサッカーだと彼は言っていました。現役の頃からそうした場面にいくつも出会ってきたので、特に障がい者のサッカーだと意識したことはないんです。将来は障がい者サッカー連盟もサッカー協会に一元化して、一つの部門になればいいなと思っているくらいです。実際に、障がい者サッカーの選手たちと一緒にプレーしていると、相手に障がいがあることを忘れてしまいます。障がい者サッカーというくくりで分ける必要もないのかもしれません。

区長 少しルールが違うだけで同じサッカーですからね。

北澤 そうなんです。障がいがあるから分けるのではなく、どうやったら一緒にできるかを考える感覚が大切だと思います。

スポーツを通じて共生社会のあり方を提案

区長 昨年は天王洲公園でデフサッカー*4 日本代表候補チームと区内の社会人チームが試合を行いましたが、こうした障がいの有無に関わらず混ざり合う試みもすごくよいなと思いました。

北澤 あの試合は日本代表チームの競技レベルを上げましたね。昨年9月に行われた世界選手権で、日本代表は2位という成績を残すことができました。

区長 トレーニングマッチとしても大成功だったわけですね。試合後には交流会もあって、デフサッカーの選手に子どもたちからたくさんの質問があがっていました。障がいの有無に関係なく、人と人が気軽につながれるのはスポーツの力でもありますね。

北澤 そうですね。娘が高校生の時に1年間アメリカへ留学したのですが、その時に初めて「サッカーやっていてよかった」と言ったんですよ。サッカーをやることで友だちができて、人間関係がすごく広がったみたいです。それまでは無理矢理やらされていたので大嫌いだったんですね(笑)。

区長 そうでしたか(笑)。アメリカは学業だけではなく、スポーツや芸術などで活躍していることが大学の入学条件になっていたりしますね。

北澤 そうですね。ほかにも、スポーツを通じた社会参加や社会貢献にも積極的ですね。最近は日本でも注目され始めていますが、アメリカではユニファイドチーム*5 の大会が頻繁に行われています。知的障がいのある人とない人が半分ずつのチーム編成で試合をするのですが、非常によい取り組みだと思っています。

区長 スポーツが人と人をつなぐ、スポーツによって人と人が混ざり合うということですね。

北澤 はい。これからは障がいだけではなく、年齢、性別、国籍を超えて、さまざまな人が混ざり合うことができる。スポーツを通じてそうした発想や取り組みを提案していければ、社会全体の理解のスピードも変わっていくのかなと感じています。スポーツは、共生社会を実現する一つのきっかけになると思っています。

区長 「誰もが生きがいを感じ、自分らしく暮らしていける品川」をつくっていくため、スポーツの力が重要だと改めて実感しました。今日はありがとうございました。

北澤 ありがとうございました。


サッカーボールをイメージしてアレンジした「フラワーボール」を手に
フラワーボールを手に写真

〈きゅりあん応接室にて〉


*1 デフリンピック/デフ+オリンピックのこと。デフ(Deaf)とは、英語で「耳がきこえない」という意味で、デフリンピックは「聴覚障がい者のためのオリンピック」である。2025年は東京で開催される。

*2 Santen IBSAブラインドサッカーワールドグランプリ/2018年に新設された、ブラインドサッカーをアジアおよび世界へ普及させることを目的とした大会。第1~3回まで品川区の天王洲公園にて開催された。

*3 LIGA.i(リーガアイ)ブラインドサッカートップリーグ/ブラインドサッカーのさらなる発展をめざし2022年に新設されたリーグ。

*4 デフサッカー/聴覚障がい者によるサッカー。2023年世界選手権出場前のデフサッカー日本代表候補チームが、区内で強化合宿・トレーニングマッチを行った。

*5 ユニファイドチーム/ユニファイドスポーツ(登録商標)におけるチーム編成。知的障がいのある人(アスリート)と知的障がいのない人(パートナー)がチームメイトとなり、一緒にスポーツをする。スポーツを楽しむ機会が少なかった知的障がいのある人たちにスポーツを通じて社会参加を応援するスペシャルオリンピックス(SO)の取り組みとして注目されている。

対談を終えて

サッカー元日本代表として、テレビなどでも明るいキャラクターでご活躍されている北澤さん。障がい者スポーツの普及やさまざまな地域貢献活動を行い、サッカーを通じ、障がいの有無に関わらず混ざり合う社会の実現に取り組んでおられる姿に感銘を受けました。今年はパリ2024大会、来年は東京2025デフリンピックも予定されています。スポーツを通してさらなる共生社会の実現を区としても推進していきます。本年もよろしくお願いいたします。(森澤恭子)



北澤 豪(きたざわ つよし)
1968年東京都出身。サッカー元日本代表。1991年から読売サッカークラブ(現・東京ヴェルディ)に所属しJリーグで活躍。また日本代表としても数々の国際試合に出場した。2002年引退。現在は日本サッカー協会参与、日本障がい者サッカー連盟会長などを務める一方、ジュニア向けサッカースクール「FOOT」を主宰。また国際協力機構(JICA)のオフィシャルサポーターとして開発途上国を訪問するほか、途上国支援、社会貢献活動に積極的に取り組んでいる。

北澤豪さん写真

森澤 恭子(もりさわ きょうこ)
1978年神奈川県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、日本テレビに入社。森ビル、ベンチャー企業数社を経て、2017年東京都議会議員選挙に初当選(2期)。2022年12月品川区長に就任。

森澤恭子さん写真